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牛ずもう

 

昔は八丈島でも闘牛が行われていました。

娯楽の少ない時代の島民の楽しみだったかと思います。

相手が倒れるまで戦わせていたと話に聞きます。

それが私が物心つく頃には

観光化されて 島を訪れる人たちへ「見せる闘牛ショー」に変わりました。

観光客を相手に 筋肉もりもりのりっぱな牛たちの晴れやかな舞台です。

堂々たる風格の牛たちが登場し、

ひがぁ~し~横綱○○やまぁ、にぃ~し~大関○○まるぅ~~~と紹介されます。

 

闘牛場を丸く囲んで座らされた観光客は

行司の面白おかしい話に乗せられて大爆笑の連続!

 

この頃に八丈島を観光した人たちの印象に残ったこの行司さん、

観光ブームに貢献した名物おじさんです。

牛たちをちょっと戦わせては勝手に終わらせて、

勝手に物言いをつけたりと、なにしろ楽しく見させてくれました。

戦い終えた牛たちは満足したように威風堂々と退場していきます。

 

おじさんはオフの時もいつもド派手なアロハシャツを着ていました。

白いあごひげに、ジャラジャラ垂れた首飾り、爪には真っ赤なマニキュア、

大きな指輪をはめた手に焼酎ビンを握って島中あちこちに現れました。

不思議ないでたちに

子供ごころに変わったおじさんだなぁと思ったものですが、

おじさんはいつも変わらずにこにこ笑っていました。

 

あのド派手さとあのキャラクターは、

観光客を楽しませようとしたおじさんの信念からのものだったのでしょう。

 

今の倍ほどの人口もあった昭和の時代、

新婚旅行は九州の宮崎か八丈島(?)かと言われたこともありました。

観光バスも数台連なり、おみやげ屋さんはそれはもうにぎやかでした。

 

そのおじさんも亡くなって、

牛相撲はしばらくは続行されましたが今はもうありません。

八丈島で育った今の若い人は

牛ずもうがあったことすら知らない世代になりました。